
渋沢記念館に移築された「誠之堂」
珪藻土塗り壁材「はいからさん」の開発は、渋沢記念館の修復工事と、同潤会アパートの調査に端を発しています。近代建築の基礎となった大正末期から昭和初期の時代、欧米先進国の「洋風内装材」に負けない「国産の内装材」の開発が必要とされました。
渋沢記念館の「内装材」には、漆喰や入洛(じゅらく)ではなく、マグネシアセメントを原料とした「スタッコマンチュリア」、同潤会アパートの「外装材」にも、マグネシアセメントを原料とした「リソイド」が使用されていました。
文化財級の建物の修復、研究調査の過程でこのことを知った私たちは、「マグネシアセメント」の技術を復活させ、まったく新しいタイプの珪藻土塗り壁の開発がスタートしました。

青山同潤会アパート
関東大震災後の復興住宅として、日本で初めて建てられた鉄筋コンクリートの共同住宅、それが「同潤会アパート」でした。東大のエリート集団が設計し、著名な文化人が大勢住んでいたことでも有名だったようです。保存の声も届かず、取り壊されてしまいましたが、東京・渋谷の青山通りに建っていた趣のある姿を覚えていらっしゃる方も多いと思います。
青山同潤会アパートが無くなる(ROOM335さんのサイト)
http://www.linkclub.or.jp/~hiro335/R_335/special_06.html
同潤会記憶アパートメントさんのサイト
http://kioku.info/index.html
東洋一のアパート 70年の歴史に幕!同潤会アパート(AllAbout)
http://allabout.co.jp/house/mansionlife/closeup/CU20030417/

大連満鉄総部
マグネシアセメントは、旧国鉄の前身、南満州鉄道の関連会社「南満工業」が開発しました。その研究の中心人物の子孫が「はいからさん」開発チームの一人だったことから、珪藻土70%以上含有の「はいからさん」が誕生しました。
マグネシアセメントの原料は、「にがり」と「マグネシウム」です。あまり身近に感じない素材ですが、「歯科用セメント」として利用できる安全性と、築後80年以上経った同潤会アパートの壁が、ハンマーでたたいてもヒビ1つ入らず、解体作業に手間取った程の頑丈さが最大の特徴です。

珪藻土は、細かな粉
当時のマグネシアセメントには砂利などを入れていたようですが、室内用には今ひとつ。そこで、ここ数年注目されている「珪藻土」を加えてみては、どうかと考えました。10%程度から始めていきましたが、加えても加えても固まります。含有量が多いと「固まらない」ということが珪藻土の欠点の一つと言われていますが、人工大理石が作れるほど硬い結晶になるマグネシアセメントは、珪藻土のその欠点を見事に包みこんでくれるようです。
渋沢記念館、同潤会アパート等々、西洋風建物に合う内装材として開発された素材が「スタッコマンチュリア」でした。私たちは、この素材を知り、学び、復活させることに成功しました。大正から昭和初期にかけて、日本がもっと元気だった、華やかかりし時代に生きた日本人としての誇りを持った先人に敬意を払い、この古くて新しい素材を「はいからさん」と命名させていただいたのです。
ブログ:はいからさん命名の秘密
http://blog.livedoor.jp/atopico/archives/26588858.html
抜群の吸放出量を誇る「はいからさん」でしたが、1つ大きな難点がありました。
「はいからさん」は骨材が小さいため薄塗りになりやすいのです。特にホワイト色は、珪藻土の粒子が細かく、コテ滑りが良い為、作業性は良い反面、注意しないと「薄塗り」になってしまいました。
塗厚が薄いと下地を拾ってしまい、パテの後やシーラーの塗りムラなどがくっきりと出て仕上がりが綺麗ではありません。
パターン付けに慣れていないと、塗厚の差が2-3mmも出てしまい、これが色ムラに見えることがあります。塗厚の不均衡が原因です。材料の不純物による色ムラは解決済ですが、これは長所である吸放出量が影響しています。たったミリ単位の塗厚の差が、湿度を吸い込んだ時に、はっきりと色の違いがでてきてしまうのです。
素材の特性を理解してもらえれば、何ら問題のない特性ではありますが、ギリギリの工程日数で動いている現場が多い現状では、正直、「ほんの少し」丁寧に作業することが難しいことがわかりました。しかし、職人さんは「いかに効率良く作業をするか」ということに重点をおく為、「きっちりとした養生」「乾燥時間の厳守」「道具の整備」等々が、おざなりにされている事もわかってきました。
「バーミキュライト」を加えたことで、塗厚2-3mmを容易に守れるようになり、あまり慣れていない方が素材を「触りすぎ」ても以前よりもさらにクラックが入りにくくもなっています。
安心材料だけで、施工性がもっと良くならないか。
何件も何件も現場を重ねて、こちらの希望だけでは現状に則さないということを痛感し、もっと現場に即した商品の開発を始めました。
はいからさんは、材料と同分量の水分が必要なぐらい、珪藻土がたっぷり入っています。逆にいえば、それだけの水分を吸い取ることができる許容量を持っている、ということの裏返しなのです。
でも慌しい現代の建築現場では、それが大きな欠点となってしまうことがあります。
水分を多く含むということは、乾燥に時間がかかります。
しかし、内装仕上げ材をじっくり乾燥している時間的余裕がない。
そして初期乾燥が速ければ、色ムラが起こりにくくなることもわかっていました。
水で練って仕上げていく左官材には欠かせない部分ですが、最近は樹脂系の左官材が増え、マニュアル通りに施工するだけで工夫を必要としない商品も増えてきましたし、増加傾向にあるペンキ左官屋さんは、水の扱いに慣れていない為、難しいことを要求できないのです。
自然素材系の左官材の中でも、必要とする水分量がダントツに多い「はいからさん」は、この職人のカンと丁寧な養生が必須です。
規定の水分量や乾燥時間は提示していますが、ほとんどの場合、その水分量は「カン」によって決まります。職人さんによって好みの固さが違うこと、湿度や温度によって微妙に変化する粉が必要とする量をマニュアルでは表現することはできません。
規定の水分量や乾燥時間は提示していますが、ほとんどの場合、その水分量は「カン」によって決まります。職人さんによって好みの固さが違うこと、湿度や温度によって微妙に変化する粉が必要とする量をマニュアルでは表現することはできません。
お料理なんかもそういうところがありますよね。
例えば、手作りパンもレシピを基本にするけれど、湿度の高い梅雨の時期、暖房の効いている冬は、加える水分を加減しながら粉を練っていきます。醗酵時間も、暖かい季節は短く、寒い冬は少し時間を多く必要とすることは当たり前。レシピ通りに作っても、毎回仕上がりが違うのはこういう理由があるからで、このコツをしっかり掴んだ時「やった!」と思います。
左官仕事も水を加えて練るだけではない、微妙なエッセンスが職人の腕の違いになるのです。
残念ながら、この微妙なエッセンスが加えられることは多くありません。
はいからさんは、市上初の新しい素材でしたので、施工指導にお邪魔して製品の特性を各現場で職人さんに直接説明させていただいていました。
施工方法について説明させていただくと「そんな面倒なことはできない」、と言われることが少なくありませんでした。伺ってみると工事代金が驚く程安く、そんな手間暇をかけたら合わない、ということがわかりました。
また、そういう現場に限って下地の状態が最悪でした。左官だけではなく、一時が万事ということです。
左官材は、下地が均一になっていないと、割れ(クラック)や色ムラが発生しやすくなりますので、本来は、不陸(凹凸)を補修して、仕上げ材を塗る必要がありますが、不陸を丁寧に補修している時間的余裕、金銭的余裕が左官職人さんに与えられていません。
【ある現場の石膏ボード下地】


高さの違い(3mm程度)はわかりにくいですが、隙間や釘の本数が異常に多いですね。本来はもっと綺麗に仕上げるべきなのです。←工事途中のチェックポイントでもあります!
このような下地の状態をお施主さんは知りませんから、仕上がりの悪さは、左官の責任になります。だから左官屋は下塗りを好みますが、下塗りをすることで工事日程が増える、工賃がかさむ、などの理由から、それを了解する工務店は多くありません。
このような現場が、自然素材住宅としてPRしている建物であることも多く、自然素材ブーム、左官ブームといえども、アトピッコハウスが考える自然素材と一般的な素材には大きなギャップがあります。私たちが、律儀に本物を追求し過ぎ、マニアックな独り善がりになっていたのかもしれません。
はいからさんは、本物の左官仕事の復活と、安全な塗り壁を普及させたいという2つの思いで開発をしてきましたが、左官仕事を条件付で復活させないと、結果的に安全な塗り壁の普及につながらないことを実感しました。
調湿効果をキープしたまま、施工性を重視する。それには、まず攪拌時の水分量を減らさなければなりません。成分比率を見直すことで「はいからさん」と比較して、1坪あたり900ccの水を減らすことが出来ました。6畳の一般的な部屋に施工したとして、6リッターの水に相当します。大きなペットボトル3本分です。
これにより、初期乾燥不良による色ムラが解消されました。
また、パーライトの種類を変更したことで比較的簡単に2mmの塗り厚が確保でき、尚かつ、はいからさんの絹のような仕上がり感をキープすることに成功しました。
調湿効果もJIS規格の約3倍の試験結果が得られています。
そして、DIY用としても、もっともっと最適になりました。
とにかく
塗りやすい
もちろん安全・安心
仕上がりが綺麗
なのですから。
成分構成を見直すことで、はいからさんで実現不可能だった、カラーバリエーションを増やすことができました。
世の中には、色々な土があるものです。
赤系、黄色系、グリーン系等を組み合わせ、石油系顔料を一切使用せず、透明感のある綺麗な色になりました。
当初顔料を、現場で混ぜていただく設定にしておりました。これは、顔料による汚水を、製造元でも現場でもできるだけ自然環境に出さないようにする工夫です。工場ではホワイトのみ作成し、必要な場合は現場で調合していただくことで、無駄がなくなると考えました。
しかし、現場でお客様に顔料を見せるのは印象が悪いという声が‥。
石油系の顔料は鮮やかというか、毒々しい色の為、イメージが悪いのかもしれません。でも、実は綺麗なカラーバリエーションは、「誰かが、どこかで汚れ役をしている」のです。工場で混ぜられれば気にならないが、目の前で作業されるのはちょっと‥。
もしも、そう感じる方がいらっしゃったら、洋服や家具を選ぶとき、そしてその食品の綺麗なピンク色はどうやって着色されているのか、を少し考えてみてください。目の前で着色剤が加えられていなければ、綺麗なほうが良い。
それはLOHASの考え方とは違うと感じます。
世の中にある様々な製品の裏側には「誰かが、どこかで、石油系顔料を加えて河川が汚染されている」かもしれない。自然素材にこだわることで、こんな風に意識が変化していったら素敵です。
お陰で様ではいから小町のカラーバリエーションは、石油系顔料を使用せずにご紹介できることになりました。主原料である「珪藻土」も「マグネシアセメント」も純白のため、天然の土のみを使用しているにもかかわらず、とても綺麗な色に仕上がります。そんな自然素材の恵みを感じていただけるよう、カラーバリエーションを、「はつ雪(白)」「くちなし(クリーム)」「ゆず(黄色)」「さくら(ナチュラル)」等と呼ぶことにしました。
はいから小町を引き続き、可愛がっていただきますようお願いいたします。





